こんにちは、榊原です。今日は、本の紹介です。2021年度アガサ・クリスティー賞受賞作「同志少女よ、敵を撃て」についてご紹介します。
近所の有隣堂に平積みされていたのを見かけましたが、カバーイラストも超かっこいいし、何よりタイトルが素晴らしい。一目見て「読もう」という気にさせる本でした。
結論だけ先に言うと、「狙撃」と「女性」をテーマにした傑作冒険小説です。長さはありますが、買って後悔のない作品だと思います。
目次
あらすじ
物語は1940年から始まる。ソ連にあるイワノフスカヤ村の少女、「セラフィマ・エメリヤノヴナ・アルスカヤ」は、ある日、家族や友人たちを、襲撃してきたドイツ兵に皆殺しにされる。
生き延びた彼女が憎悪した対象は二人。母を殺した「イェーガー」と呼ばれるドイツ兵、母を侮蔑し、その遺体を焼いたソ連兵、「イリーナ・エメリヤノヴナ」。イリーナに連れられた先は、狙撃部隊の訓練学校だった。そこでセラフィマは、彼女と似た境遇の訓練兵「シャルロッタ」「アヤ」「ヤーナ」「オリが」と出会い、狙撃兵となるべく訓練を受ける。
訓練の中でセラフィマの力は磨かれ、精鋭として仲間たちと戦場を歩いて行く。繰り返される戦闘の日々。徐々に失われていく人間性。散っていく仲間たち。セラフィマの復讐は、どこに辿り着くのだろうか。
ストーリー
「復讐」と「戦争の中で変わっていく自分」いうストーリーラインが、最初から最後まで一本通っているため、非常に読みやすいです。作戦の説明や状況など、「今何のための戦いなのか」という論点がきっちり説明されているため、置いてけぼりになる人はいないと思います。
独ソ戦について前提知識を入れた方が楽しめるのかもしれませんが、自分はほぼ知識なしでも十分楽しめたので、本作を読む前の予習は必要ないかと思います。
主に主人公のセラフィマに視点を絞っています。家族を奪われる理不尽に対する怒り、仲間との絆など、現代を生きる僕たちにも感情移入できる熱い物語が描かれています。
セラフィマ自体が相当に優秀なためか、死への恐怖などのネガティブ要素はそこまで掘り下げられません。読み手にストレスがかからないようにするためだと思います。
全体としては冒険活劇に近いのですが、数々の伏線や、それを回収するときの爽快さはミステリーにつながるものがあり、非常に巧みな構成になっていると思いました。
登場人物
主な登場人物は主人公セラフィマと、狙撃訓練学校の戦友「シャルロッタ」「アヤ」「ヤーナ」「オリが」、元狙撃兵で訓練学校の教官であり、セラフィマの復讐相手でもある「イリーナ」となります。
400頁を超える長い物語の中で、登場人物の人数が少ないため、一人一人の背景やキャラクター性を濃厚に描いていく形となっています。
ツンデレ、クーデレ、お母さん気質、姉御など、女性ものの要素は網羅しているのではないでしょうか。どの登場人物も、自分の考えにのっとって行動していますし、エヴァンゲリオンの碇シンジ君のようなウジウジ悩んだりする人は皆無なので、非常に気持ちよく読めます。
悪くとらえれば、キャラの造形がやや類型的ではありますし、「こんな悲惨な戦闘の中で、清々しく人生を送れるのだろうか」という疑問がなくはないのですが、この辺は読みやすさを優先したのだろうと思います。
特に魅力的なのは、セラフィマとイリーナの関係で、自分をこんな世界に引きずり込んだとして憎みながらも、、自分を鍛え、共に戦場を駆け抜けてきたイリーナを慕う気持ちが同居しているという葛藤が良かったと思います。
アクション
前半は、訓練モノです。学校の仲間たちとの絆を描くとともに、狙撃兵としての養成課程が描かれます。基礎体力の訓練は勿論、今見えているものが何メートル先なのかを目測で測る訓練、発射した弾丸が、どのように飛んでいくかの感覚を獲得する訓練など、一般的な兵士の物から、狙撃兵ならではの訓練課程などがきっちり描かれて面白いです。
訓練課程を終え、実践に投入されてからは、敵部隊との遭遇戦、戦車との戦闘、敵スナイパーとの戦いなど、手に汗握る展開が次から次へと描かれます。僕は、狙撃については不勉強なのでわからない部分が多いですが、説得的に伝わってくる描写になっています。
特に狙撃銃の機構については、かなりページを割いて描写しており、作者のこだわりを感じます。だいぶ前のゲームですが、メタルギアソリッドというゲームで、主人公と女スナイパーが狙撃で対決するという展開を思い出しました。まぁ、このゲームだと狙撃銃を使わなくてもリモコンミサイルで結構アッサリ勝てるんですけど(笑)。
地獄のような戦場を渡り歩いた主人公が、最後に狙撃した相手は、この物語の全てが詰まっている、素晴らしいシーンだったと思います。
最後に
著者の逢坂さんは、新人ということですが、一線で書いている有名作家に引けを取らない、力強い作品になっていると思います。
これから年末ということで、本を読む時間が取れる人は、ぜひ一度手に取っていただきたいと思います。
それでは、また!