こんにちは、榊原です。今日は、書籍の紹介です。櫻田智也さん著作の「奪われた貌」についてご紹介します。
ネタバレはありませんが、キャラクターの性格やセリフの一部には触れますので、一切の情報を入れずに本作を楽しみたい方はご注意ください。
あらすじ
山奥で、顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされた死体が発見された。事件報道後、警察署に小学生が訪れ、死体は「自分のお父さんかもしれない」と言う。彼の父親は十年前に失踪し、失踪宣告を受けていた。無関係に見えた出来事が絡み合い、現在と過去を飲み込んで、事件は思いがけない方向へ膨らみ始める。
作品の特徴について
帯にもあった「主人公の日野雪彦は非常な私立探偵のようだ」のとおり、主人公は警察官にもかかわらず、孤独に事件を捜査する探偵小説のような雰囲気の作品です。
文章は平易で読みやすく、後述しますが会話も気が利いていて楽しく読めます。更に、事件の展開が読めず、どこに連れていかれるのかわからない浮遊感を感じる作品でした。
ミステリー小説としては王道ながらも、キャラクターの魅力、会話の魅力、事件展開の魅力など、一つ一つの質が高いところが特徴です。以下、魅力を書いていきます。
①丁々発止のやり取り
主人公日野と部下である入江、同期の羽幌などと意見を交換して事件の本質に迫っていくのですが、会話の一つ一つにユーモアがあり、見ていて飽きません。
(昼食中に事件解決の端緒に気づいて、食事中の入り江に)「麺は許そう。だが、スープを飲む時間はないぞ」
(体格の大きい人物を話題にしていて)「あたしの言葉は、あの人にはいつも届かなくて」→「あの胸板ですからね」
この気の利いたやり取りにキャラクターの血が通っていて、彼らのことを好きになります。凄いのは、メインのキャラクターだけではなく、登場の機会が少ないキャラクターにも細かく配慮されていることです。
眼鏡を拭くのが「出ていけ」のサインである上司から、年長者に対する敬意を欠いた検視官、生意気ながらも体調を崩した友人を助けに駆けつける少年など、無駄なキャラクターがいません。
読み終わった後は、誰がどういう人間だったかを思い起こせることでしょう。
②伏線の数々
どうでもいい会話と思いきや、後で別の意味を持ってくる展開がいくつもあります。これ、わざとらしくなく、それでいて後で「ああ、あれね」って読者が気付けるようにするのって大変だと思うんですよね。
事件の核心部分だけではなく全体的に張り巡らされているので(日野の家庭生活でも伏線が!)、作者が得意とする分野なのかもしれません。
③真相に近づくプロセス
謎が一気に明かされる名探偵コナン型ではなく、日野や入り江が少しずつ真相に近づき、事件を決着させるプロセスが楽しいです。
日野の情報は読者である我々と同じなので、事件を解いている感覚を味わえます。何気ない会話のやりとりから手掛かりをすくい上げる日野に感心しきりでしたが(笑)。
終わりに
魅力的なキャラクター、先の読めない展開、丁々発止のやり取りなど、優れたミステリーの条件を兼ね備えた作品です。
「シロナガス島への帰還」「御仏の殺人」など、楽しいミステリー(謎解き)を観たい人たちにお勧めです。逆に、本作が面白くて上記の作品をやっていない人はぜひ遊んでもらいたいですね。
まだまだ魅力が引き出せそうなキャラクターがたくさんいるので、ぜひ続編を書いてもらいたいです。
それでは、また!