こんにちは、榊原です。マイケル・ルイス著作の「1兆円を盗んだ男」を読みました。これからこの本を読むことを検討している方、この本に興味がある方にお読みいただきたいと思います。
マイケル・ルイスについて
アメリカのノンフィクション作家であり、金融ジャーナリストです。過去の著作である「マネー・ボール」「ビッグ・ショート(映画タイトルは『マネー・ショート』)」はともに映画化されています。
マネー・ボールについては映画・原作の両方とも見たことがなく、ビッグ・ショートは映画のみ観ました。作者に興味はあったんですけど、今回初めての購入となります。
概要について
暗号資産、いわゆる仮想通貨の取引所であるFTXの興亡についての一冊となります(暗号資産は、以下『仮想通貨』で統一します)。
仮想通貨とは何か、という技術的な話ではなく、FTXがどういう事業形態だったのか、今回の件で有罪判決を受けたサム・バンクマン・フリードとはどういう人物だったのかという内容になっています。
映画化は難しいような
マイケル・ルイスの金融を扱った作品ということで想起されるビッグ・ショートとは、大分毛色が違います。リーマン・ショックは、多くの人が資産を失い、失業し、それを招いた人間が責任を取らないことに対し、感情の動きがありました。
比較して、今作の温度感は総じて低いです。中心であるサムが胸に抱く野心や情熱などが読み手に伝わりにくいというか、サムが結局何を求めていたのかわかりませんでした。
『他人と話すときには片手間にゲームをやっていた』というエピソードは結構パンチが効いていますが、それ以外は記憶に残るエピソードがなく、薄味です。他人に対する共感性が乏しいのは理解できますが、話を引っ張っていけるほど魅力的かと問われると疑問です。
マイケル・ルイス原作ということで映画化の検討もされているとは思いますが、結構難しいかもしれません。
何が起きたのか、結局よくわからない
今作の最大の問題点だと思います。ハッキングを受けた『らしい』、アラメダリサーチとの間で取引に問題があった『らしい』というのはわかりますが、結局何が起きて、だれがどういう役割を果たしたのかがよくわかりません。
怒涛の展開で全てが壊れていくライブ感があると言えなくもありませんが、単に事件の経緯を整理できなかったような気がします。
最後に
原題は「GOING INFINITY」というトイストーリーのバズのセリフみたいなタイトルで、全く「1兆円を盗んだ男」ではありません。これでいいのでしょうか。
そもそもこの作品、別にFTXの破綻について書こうとしたわけではなく、マイケル・ルイスがサムという時代の寵児に注目して取材をしていると、その途中でFTXが破綻してしまったという流れのようです。なんという不運。
取材は始めてしまったし、これはこれで面白いので、一本書くか!というノリで書き上げたのかどうかはわかりませんが、本作の端々から滲み出る、整理されていない感はこのせいなのか……?
リーマン・ショックと違って、仮想通貨業界という限定的なネタのため、5年後には忘れられてしまいそうな事件です。興味があるのでしたら、今すぐに読まれることを強くお勧めします。
それでは、また!