こんにちは、榊原です。今日は書籍の紹介です。多崎 礼さん著作の「レーエンデ国物語」についてご紹介します。
あらすじ
聖イジョルニ帝国フェデル城。家に縛られてきた貴族の娘・ユリアは、英雄の父と旅に出る。呪われた地・レーエンデで出会ったのは、琥珀の瞳を持つ寡黙な射手・トリスタンだった。
空を舞う泡虫、乳白色に天へ伸びる古代樹、湖に建つ孤島城。その数々に魅了されたユリアは、はじめての友達、はじめての仕事、はじめての恋を経て、やがてレーエンデ全土の争乱に巻き込まれていく。
本作のいい所
文体
本作はほぼユリア、トリスタン、ヘクトルの誰かからの視点で語られ、平易な文章で書かれているため、読むのが苦になりません。後述するキャラクターの魅力も合わせて、どんどんページを先に進められます。約500ページと、まぁまぁな長さですが、一日で読み切ることができました。
キャラクター
故郷に居場所を見つけられない少女ユリア、ユリアの父であり、伝説的な戦士であるヘクトル、レーエンデの案内人であり、ヘクトルと因縁を持つ青年トリスタン。
彼らの一人一人が葛藤し、乗り越え、先に進もうという意思を見せ、非常に胸を熱くしてくれます。
特にトリスタンは、最初こそ剣呑な空気を出しているものの、打ち解け、自らを曝け出してからは、いるだけで穏やかな空気を感じるキャラでした。
「僕の望みは、何ものにも縛られることなく自由に生きること。自分が正しいと思う道を進むこと。悔いのない人生を生き尽くし、満足して笑って死ぬこと。それだけです」という言葉の真意が明かされた時は、思わずため息がもれます。だいぶ求め過ぎな気がするけど。
イマイチなところ
ストーリのテンポが悪い
物語的な推進力がちょっと乏しいんですよね。ヘクトルが企図している事業という目的はありますが、主役であるユリアは能動的に何かをすることよりも、彼らが出張するのを待っていることが多い印象でした。
そのうえ、ユリア自身が抱えていた苦悩については、前半3分の1~中盤くらいで概ね片が付いてしまうんですよね。穏やかな生活が描写されるのですが、そのエピソードがあんまり話の核心に結び付いてきません。
かと思いきや、あることをきっかけに急速に物語が終わってしまうので、面食らいました。物語のテンポは決して褒められたものではないと思います。
キャラクターが覚えにくい
ファンタジー小説というジャンルであるため仕方ないと思いますが、キャラクターが全員カタカナ名で10名程度いるため、登場人物の背景と関係性を整理するのが一苦労です。最初は紹介文があるので大丈夫ですが、再登場した時には、一回手が止まりました。この辺は挿絵つけるか、説明を多めにしてもらえないと中々にきついですね。
ここからは、今作の完全なネタバレを含みますので、これから読む人はご注意ください。
結末についての衝撃と不満
2023年11月5日現在で、3巻まで発売されていたので、一段落したところで「次巻に続く」になると思っていましたが、まさか全員(老衰含めて)死ぬことになるとは驚きました。
どうも今作はプロローグに過ぎず、最後はトリスタンが幻視した者たちが続巻の主人公として活躍することになりそうです。
時代を変えて運命に翻弄される者や、事態を打開する英雄を描くのは面白いと思いますが、今作のユリアやトリスタンたちが好きな人とか、この展開はどうなんでしょうか?
エピソードを重ねるにはいい手法ですが、ファンが定着するかはちょっと危うい気がします。大ヒット小説「十二国記シリーズ」を意識しているのでしょうか。あのシリーズも全てがうまくいっているわけではないと思いますが。
トリスタンの、「全てをやり切って笑って死ぬ」という伏線のは感動的ですが、ユリアとの悲恋はちょっと救いがなさすぎます。このシリーズのラストは、全てが終わった死後の世界で彼らが再会するのでしょうか?火の鳥でそういう話ありましたね。
また、ユリアの子エーデルを奪ったサージェス、ハグレの烙印を押されたガフ、嫌みな権力者丸出しの従兄弟など、明確に悪と描かれるキャラクターが悪びれず、悔いもないまま退場していきます。
現実世界ではともかく、フィクションの世界では悪は主人公に罰せられるか、自らの行為を死ぬほど後悔して消えて欲しいので、この辺は不満が残りました。
終わりに
文句も書きましたが、読んでいる時間は非常に楽しい時間を過ごすことができる作品です(それだけに結末がキツい!)。
ストーリーよりも、キャラクターの超克や丁々発止のやり取りが楽しい作品なので、メインキャラが一掃された続巻でも同じ楽しさが味わえるかわかりませんが、続けて買っていこうかと思います。
それでは、また!