こんにちは、榊原です。今日は、文芸春秋から出版されている上橋菜穂子さん著作の新作「香君(こうくん)」についてご紹介します。
この記事は、こんな人におすすめです。
- 上橋菜穂子さん作品のファン
- ファンタジー小説が好きな方
- 読み応えのある小説をお求めの方
目次
上橋菜穂子さんについて
「獣の奏者」「精霊の守り人」「鹿の王」等が代表作の作家さんです。ジャンルは主にファンタジー小説ですが、思想や文化、歴史など、しっかりした世界観に構築された物語の展開が特徴的な方です。
「獣の奏者」や「精霊の守り人」は児童文学として出版されたはずですが、戦争や病による肉親の死など、かなりハードな部分もあるので、果たして児童文学作家なのかは議論があるところだと思います(笑)。
上記の代表作は映像化されていて、一番メジャーなのは「精霊の守り人」でしょうか。疾走感のある戦闘描写や独特の食事など、見所作品です。
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あらすじ(公式ホームページより)
遥か昔、〈神郷〉から降臨した初代〈香君〉が携えてきたとされる奇跡の稲〈オアレ稲〉の力によって、多くの国を従え、繁栄を誇ってきたウマール帝国。
その属国〈西カンタル藩王国〉の藩王の孫、15歳の少女アイシャは人並外れた嗅覚を持ち、植物や昆虫たちが香りで行っているコミュニケーションを〈香りの声〉のように感じながら生きていた。
祖父の失脚の後、彼女の運命は大きく変転していき、やがて、ウマール帝国を庇護する美しい活神である当代〈香君〉の元で働くことになる。
いいところ
ストーリー
丁寧に作られた歴史と文化
本作は以前の作品と独立した作品ですが、上記代表作と同様に世界観の構築が非常に丁寧に行われています。
国の歴史や食事、生き方などがバッチリ描写されているため、まるで本当にその国があったのではないかと思わされます。
ファンタジーという世界観が重要なジャンルでこの点をしっかりとやってくれているため、物語冒頭から物語に没入できます。
また、目次の次に主人公アイシャの家を始め、どの国が、どの場所にあるのかが書かれた地図が掲載されています。
こういう風に、眼で世界観を伝えてくれるのは理解が進むので非常にありがたいです。出版社の気合が伝わります。
普遍的なテーマ
本作のテーマは「飢え」です。過去作においても食事は物語の重要な要素でしたが、本作では食物がないことによる飢えに着目しています。
物語の舞台は架空の世界ですが、飢えが迫ることの危機感、救いを求めて香君に縋る者たちなど、現代人にも共感できる内容になっているため、登場人物に非常に共感しやすいです。
シンプルかつストレートな構成
物語上で起こる事件はほぼ一つで、それに対してアイシャが出会ってきた様々な人たちの力を借りて解決するという流れになっています。
事件の発生や予想される凶事、そのために打つべき対策など、物語上の論点が非常にわかりやすく書かれているのも本作の魅力です。
文体も相まってサクサク読み進められます。ハードカバーで上下巻のため、見た目はかなりガッシリとしていますが、数時間あれば読了できるのではないでしょうか。
ミステリー要素
アイシャの祖父が失脚する原因となった、奇跡の稲に隠された秘密と、そこから始まる事件が物語の重要な核となっています。
アイシャの感覚でも断片的にしか情報はわからず、そこから論理的に状況を導き出すのがミステリー要素となっていて面白いです。
イマイチなところ
薄味なキャラクター
他人にない感覚を持ち、ある種の孤独を抱えているアイシャは魅力的ではあるのですが、過去作の主人公バルサにはちょっと及ばないかなという印象です。
バルサとアイシャでは年齢設定が違うことから抱えている業に差があるので、好みの問題かもしれません。
覚えにくい固有名詞
世界観の魅力と表裏一体なので難しいところですが、独自の世界観の単語や用語、人物名が全てカタカナなので非常に覚えにくいです。
ウマール帝国、オアレ稲、幽谷ノ民(マキシ)など、流し読みしていると何が何やらになります。
人物名については固有名詞一覧の掲載によりカバーしてありますが、それでもちょっと手が止まることが数回ありました。
終わりに
主人公や周囲の人の人柄が穏やかで共感しやすく、事件の展開がシンプルのため、非常に読みやすく面白い一作になっています。
過去作のファンであれば必読の一冊ですし、上橋さんの著作に初めて触れる方にもおススメの作品です。ぜひご覧ください。