こんにちは、榊原です。今日は、本の紹介です。西尾維新さん著作の「きみとぼくの壊れた世界」についてご紹介します。
この本は、こんな人におすすめです。
◆丁々発止の会話劇が好きな方
◆作中人物がミステリを貶めることに抵抗の無い方
◆さらっと楽しい物語が読みたい方
目次
西尾維新さんについて
持って回った言い方と、独特のネーミングセンスが特徴的な作家さんで、「戯言シリーズ」「物語シリーズ」をはじめ、非常に著作が多い方です。
一日二万字を書くというのをどこかの記事で読んだことがあります。ほぼ打ちっぱなしの速度ですよね。考えながら打てる気が全くしません。
マンガのイラストが表紙を飾る作品が多いため、ライトノベル作家と世間では認識されているのではないでしょうか。
本作においても、表紙に移っているのは「病院坂」と書かれているネームをつけた、ブルマーを履いた女の子がこちらを見ているというもので、買いにくさはトップレベルに近いです。これの表紙を本屋の店員さんに差し出せる猛者はそう多くないでしょう。
あらすじ
禁じられた一線を現在進行形で踏み越えつつある兄妹、櫃内様刻(ひつうち さまとき)と櫃内夜月(ひつうち よるつき)。その友人、迎槻箱彦(むかえづき はこひこ)と琴原りりす(ことはら りりす)。彼らの世界は学園内で起こった密室殺人事件によって決定的にひびわれていく……。様刻は保健室のひきこもり、病院坂黒猫(びょういんざか くろねこ)とともに事件の解決に乗り出すが――?
本作の魅力
掛け合い
主に主人公の様刻と病院坂の掛け合いが、持って回った言い方の連続で非常に楽しいです。
妹のためとなれば、友人といえども縁を切り、暴力すら辞さない恐怖のシスコン男の様刻と、男性口調で嬲るように様刻をからかう病院坂の丁々発止の遣り取りが本作の多くな魅力を占めています。
しかも、一つ一つのセリフが非常に冗長です。一つ引用します。
「来てくれて実に嬉しいよ様刻くん!ふふ、この僕が今日一日この時間この瞬間まで、ずっと君の訪問を心待ちにしていたなんて言っても君は絶対に信じてくれないんだろうな。
それが残念でならないよ。ひょっとすると昼休みまでの休み時間にでも訪ねてきてくれるかもしれないと君の友情に期待してみたんだが、それは当てが外れたと言わざるを得ない。
だがそのことで君をなじるつもりはないから、安心したまえ。」
「相変わらずよく喋るな、君は」
非常に無駄な喋りが長いです。全編がこの調子で続きます。
正直、彼らの会話の不要な引用とたとえ話と寄り道を抜いたら、この物語は3分の1くらいになるのではないかと思います。
ですが、この頭のいい中高生が憧れる様な、ひねた会話が、見ていて非常に面白く、楽しいです。彼らのやり取りを見ているだけで、終始にこやかに読み進められます。
様刻の独白
この物語は、様刻の一人称視点です。そのため、会話では主に病院坂の喋りが多くなりますが、地の文では、様刻の言葉で語られます。
上述しましたが、様刻は、妹のために、極端ともいえる行動を平気で取りますが、その行動を取るまでの思考のプロセスがねっとりと描かれているのが面白いです。
リスクとリターンを考え、取り得る行動を検討し、最善の選択をしているはずなのに、結局はどうかしていると思われても仕方がない、非常に短絡的な行動を取るという、矛盾したプロセスと結果が描かれます。
後に反省はしていますが、学校でいじめにあっている夜月の問題への対応として、「とりあえず夜月の左足を追って強制的に入院させ、夜月が学校に行かなくても済むようにした」というエピソードで、この主人公がどれだけトチ狂っているか伝わると思います。
この、自分では考えに考え抜き、どんどんドツボに堕ちる主人公の思考を辿れるというのは、この物語の大きな魅力の一つです。
セリフ
明らかに無駄と思える(そして楽しい)会話が多い本作ですが、一つ一つのセリフは、結構普遍的で、なおかつ教訓的なものも多いです。
「開き直りは極まって恥ずかしい愚か者の結論だぜ」
「君がどれほどの熟慮の結果でその判断を下したのだとしても、外から見れば安易な選択肢に走ったようにしか見えないよ。本当のところがどうだかなんて僕の知ったことじゃない。でも、そういう風にしか、見えないんだ」
本作を読んだのは、もう20年ほど前で、当時は「おっ」と感心したものですが、この辺りは今でも通じる言葉なのではないでしょうか。この言葉を言っているのが、両方とも表紙でブルマーを履いている少女というのがかなりきついですが。
イマイチなところ
ミステリ部分が非常に弱いです。容疑者が相当に絞られているので、半ばくらいで犯人に辿り着く方も多いのではないでしょうか。
また、トリック(?)部分も非常に無理があり、「そうはならないだろう」という突っ込みをせざるを得ません。
この物語は、推理を楽しむものではないという割り切った考えをすべきでしょう。真っ当な推理物を期待すると、肩透かしを食らいます。
終わりに
正直、物語内で発生している殺人事件は結構どうでもよく、行き過ぎた人間たちが織り成す人間模様と丁々発止の会話が最大の魅力です。
ちょっと時間が空いているときに読むと、とても楽しく知的(のように思える、その実無駄な)な時間を過ごせると思いますので、ぜひご覧ください。
それでは、また!