こんにちは、榊原です。今日は、本の紹介です。虚淵玄さん著作の小説「Fate/zero」について紹介します。
現在星海社ホームページで1巻が無料公開されていますので、ご興味のある方はお読みいただけると嬉しいです。
目次
Fate zeroとは?
奈須きのこさんがシナリオライターを務める、ビジュアルノベルゲーム「Fate stay night(以下フェイト)」の前日譚を、虚淵玄さんが小説化したものです。
フェイトの中でも、10年前に行われた聖杯戦争の内容について言及はされますが、具体的な内容については、あまり触れられないまま本編は終わりました。
その点について、それぞれの陣営の背景から、闘争、そして終焉までを具体化したものが本作となります。
つまり、話の終着点については、読み手は概ねわかっている状態で始まるため、どのように話の展開を持って行くか、プロセスが注目されました。
あらすじ
1994年11月。主人公・衛宮切嗣は、名家アインツベルンの委嘱を受け、妻のアイリスフィール・フォン・アインツベルン、従者の久宇舞弥とともに聖杯戦争に身を投じる。
聖杯戦争は、過去の英雄を呼び出し、一陣営になるまで殺し合い、万能の力である聖杯を得る儀式である。
呼び出す英雄は、セイバー、アーチャー、ライダー、アサシン、ランサー、キャスター、バーサーカーの7つ。
切嗣は、最優と呼ばれるセイバーの英霊を召喚し、戦いに臨む。
一方、聖堂教会に所属する言峰綺礼は、父に命じられるまま、魔術師の遠坂時臣を勝利させるべく戦いに参加する。
ふとしたきっかけで、綺礼は切嗣のことを知るようになり、強い興味を感じるが……。
己が願望をかなえるため、最強を証明するための戦いが始まる。
ゼロの雰囲気について
虚淵さんがシナリオライターを務めたゲームについては、先日記事を書きましたが、全体的に緊迫感があり、不穏な空気を作り出すのが巧い作家さんです。
本作においては、その特出した能力を、フェイトの世界観を使って如何なく発揮しています。他作品のノベライズは、ブラックラグーンでもやっていましたが、他作品だと筆がノっているのを感じます。
フェイトにおいては、学校で日常を過ごすシーンや同級生などとの恋愛の描写も少なからずありましたが、本作においてはそんなほのぼのとしたシーンはほぼありません。
描写の多くを占めるのは血みどろの殺し合いばかりで、恋愛も、甘酸っぱいものではなく、嫉妬絡みのドロドロとした悲鳴を上げたくなるものです。
浮ついた空気などなく、それぞれの魔術師が英雄と共に戦場をかけ、権謀術数の限りを尽くして殺し合う気を抜けない戦闘が、疾走感のある文体で描かれています。
元々のフェイトファンの方も楽しめますし、恋愛よりもバトルを見たい!という方にはこちらの雰囲気の方が好きかもしれません。
フェイトの序盤の「女の子が戦うのは良くない」として、主人公が戦おうとする展開は、個人的にかなり微妙な展開に思っていたので、そういう部分がないのはありがたかったです。
魅力
①全体
聖杯を手に入れ、悲願を果たすために、各陣営が、名声、愛、夢などを胸にぶつかり合う姿が描かれます。
サーヴァントという、過去の英雄と共に、その特殊能力や武力で競い合う姿や相手の裏をかく心理戦も見ごたえバッチリです。
序盤で、「魔術師殺し」と呼ばれる切嗣が、魔術に寄らず魔術師を相手取るため、狙撃銃などを用意する場面は、無駄に銃の描写が濃密に書かれていて、「虚淵作品読んでいるわ~」とほっこりします(笑)。ご丁寧に弾の説明までしてくれます。
戦闘面においても、それぞれ宝具と呼ばれる特殊武器・能力を保有しています。この切り札により、単純な能力のぶつけ合いではなく、相性等の戦略性も描かれているため、飽きない作りになっています。
また、各陣営の動きや、どういう戦略をとるべきかなどを随所にわたって検討する場面があり、読み手であるこちらにも、今どういう状況で、何が争われているかを整理してくれるので、読んでいる最中に混乱することはありません。
②登場人物
各陣営の魔術師、英霊が非常に個性的に描かれています。名声を得ようとするもの、享楽のために戦うもの、やり直せない過去を改変しようとするもの。戦う理由も思想もそれぞれが異なって面白いです。しかも、途中で綺礼が各陣営の戦う動機を整理してくれる新設設計です(笑)。
非情に徹しながら、「世界を救う」という子供のような願望のために戦う切嗣、自分の優秀さを証明するために、単身ロンドンから飛び出してきたウェイバー、家の悲願のために、万全を期す時臣など、譲れない想いのぶつけ合いは見ごたえがあります。
戦いの中で、敵を喝破するべく、あるいは、仲間との絆を深めるべく掛け合う言葉も、印象的なものが多いです。
「この芥子粒に劣る身をもって、やがて世界いつか世界を凌駕せんと大望を抱く」
「たとえ命の遣り取りだろうと、それが人の営みである以上、決して侵してはならない方と理念がある」
「あまねく万人を愛玩人形とする神が、自身もまた道化とは……成る程!ならばその悪辣な趣向も頷ける!」
一例ですが、それぞれの思想が垣間見える言葉の数々は胸を打ちます。
特に業が深いキャラとして描かれているのが間桐雁夜です。雁夜は、幼馴染の娘を救うために、その父親である時臣を殺すため、捨て身の戦いに命を投じます。
幼馴染は悲しむのではないかという疑問を無視し、破滅に向かって一直線に突き進む姿は、非常に読ませるものになっています。
イマイチなところ
前日譚ということがあり、どうしても本編にあわせるための調整がいくつかあったように思いました。
特に「切嗣がセイバーに話しかけたのは3度だけ」というところ。何回も地の文で理由を説明はしていましたが、少し苦しかったように思います。
また、セイバーが切嗣に話しかけた「正義の味方」という単語は、本編中重要な言葉ではあるのですが、セイバーの口から出るのが、やや唐突に感じました。
最後に
フェイトをあまり知らないという人でも、時系列的には最初の物語なので、この小説から読んでも、一応話は分かります(フェイト本編を知っていた方が、より作品を楽しめるとは思いますが)。
アマゾンプライムやネットフリックスでアニメも視聴できますが、小説には、アニメでは描かれない心理描写が濃密になっていますので、こちらもご覧抱けると嬉しいです。
それでは、また!