こんにちは、榊原です。今日は書籍の紹介です。ピーター・スワンソンさん著作の「8つの完璧な殺人」についてご紹介します。
ピーター・スワンソンについて
「そしてミランダを殺す」というタイトルで一躍有名になった作家さんです。僕も依然読んだことがありますが、たしかに先を読ませない話でわくわくしたのを覚えています。半面、かなり視点をいじるので、感情移入がしにくかったです。この辺りは、以前紹介した「異修羅」に通じるものがあるかもしれません(あの視点の多さは国内外通してみても中々ないとは思いますが)。
あらすじ
ミステリー専門書店の店主マルコムのもとに、FBI捜査官が訪れる。マルコムは10年前、犯罪小説史上もっとも利口で、もっとも巧妙で、もっとも成功確実な“完璧な殺人”が登場する8作を選んで、店のブログにリストを掲載した。『赤い館の秘密』、『ABC殺人事件』、『見知らぬ乗客』……。捜査官によると、それら8つの作品の手口に似た殺人事件が続いているという。犯人は彼のリストに従っているのか?
特徴について
ABC殺人事件(アガサ・クリスティの有名作)、見知らぬ乗客(ヒッチコックの映画が超有名)など、名作ミステリ小説・映画のネタを引用し、そこから物語を展開させるというところに本作の大きな特徴があります。
かといって散々ネタバレをするのかと言えばそうでもなく、ABC殺人事件以外は、あらすじ程度の物でした。これで「読む楽しみを奪っている!」と怒るのはちょっと違うかと思います。
リスト以外にも「羊たちの沈黙」に登場するクラリス捜査官の容姿に言及するなど、結構引用元は多いです。僕も半分くらいはわかりましたが、完全に知らない作品も多かったです。作品全てを読了・鑑賞している人もそうそういないでしょう。
作品については折に触れて言及してくれますし、作品を読んでいないと楽しめないということはまずありません。前述のクラリス捜査官にしても、映画を見ているとイメージが湧く、程度の物です。予習する必要はないでしょう。
ストーリーについて
前述の「そしてミランダを殺す」が視点を入れ替えての群像劇スタイルなのに対し、本作は書店の店主「マルコム」の視点で一貫しています。これにより、非常に読みやすくなっていますし、感情移入も容易です。
過去に自分が作ったリストになぞらえて引き起こされる殺人と、思い起こされる過去の記憶。マルコムが万事淡々と物事に臨む人なので、ハラハラドキドキするということはないのですが、その分、胃が重たくなるような箇所が数度あり、思わずため息をつきました。
ただ、このマルコムがちょっと拗らせすぎなんですよね。「自分は、人と近づくと、本当に仲良くなれなくて、表面を取り繕うことしかできない」くらいのこと言いだすんですけど、それって普通じゃね?と。
付き合いが長くても、何を考えているか分からなくて、相手の反応を見ながら会話するのがコミュニケーションなので、結構いい歳をした人にそういうことでウジウジされるとちょっと微妙でした。
あと、この男が、読んでもいない作品を、書評だけ読んで人に語るのですが、そういうのってどうなんでしょうか?ネットのだけ見て物を語る(いわゆるエアプ)っていうのは好きではないので、普通に感じ悪いです。
……まぁ、これ自体がマルコムという人間が過去に囚われている(今の人間関係や作品に向き合えない)ことの演出だと思うので、僕がそう思うのは作者の狙い通りなのでしょうが。
愚痴は置いておいて、どんどん深みにはまっていくマルコムへの追い込みと、その先で明かされる真実は正に一本の映画を見終わったかのようなスッキリ感がありました。物語の終わりを感じさせてくれる余韻が素晴らしいです。
キャラクターについて
マルコムを訪ねてくるFBI捜査官、店の共同経営者、作家の友人とその妻、店を手伝う気さくなアルバイトなど、様々な登場人物がいますが、印象的なキャラクターはいませんでした。良くも悪くも、ミステリ小説によく登場しそうなキャラクターが多いです。
終わりに
文句も書きましたが、買った当日に一気読み読みする程度にはのめりこみました。アマゾンのレビューや本屋の売り出し方を見る限りかなり好評のようですし、一読して損はしないかと思います。
それでは、また!