書籍「正義の教室」に学ぶ、正義という概念の奥深さについて

 こんにちは、榊原です。今日は書籍の紹介です。飲茶先生の著作、「正義の教室」を紹介します。この記事を読めば、正義について学ぶヒントになります。

目次

 概要~正義の教室って、どんな本?~

 高校生の山下正義(やました まさよし)が、最上千幸(もがみ ちゆき)、リバティ・自由・フリーダム(みゆう)、徳川倫理(とくがわ りんり)と共に、倫理の授業を通して、「正義とは何か」というテーマについて学んでいく小説仕立ての物語です。

 正義という言葉を聞いて、堅苦しいイメージを持つ人も多いと思いますが、凄く軽いノリで話が進んでいくので、サクサク読めますし、読んでいてストレスがありません。

 正義の教室の魅力

 ①テーマが普遍的

 小さい頃は、正義とか悪とかそういうヒーローに憧れていた人って多いと思います(特に男性)。でも、年齢を重ねていくごとに、「正義なんて人それぞれ」「正しいことなんてない」という結論になる人が大多数なのではないでしょうか。

 「正義を語ることに意味などあるのか?」と聞く主人公に対し、物語をけん引していく教師がいう「これ以上に重要な問いがこの世にあるだろうか」という返しにはハッとさせられます。結局、物事を判断するうえで、正義、つまり、正しいという観念から逃れられる人などいないということです。

 この物語の魅力は、「正義とはいかなる価値基準に立って物事を判断することなのか?」という、初歩の初歩から入って、じっくりと正義について論じてくれて、今の僕たちにも「正しいとは何か」という点について、考えさせてくれる点です。

 ②キャラクターが立っている

 概要で名前を挙げた女性三人のキャラクターが立っていることも魅力です。彼女らはそれぞれ、幸福・自由・道徳の一つを最上の価値観と考えて議論するのですが、それぞれの立場から論じる内容がとても面白いです。

 例えば、昨今問題となっている転売についての三人の意見はこんな感じです。

 千幸:お店も儲かって、転売した人も儲かっている。転売者から買えた人も嬉しい。全体として、幸福度は上がっているため、転売はOK。

 自由:買ったものをどうしようが、買った人の自由なんだから、転売OK。

 倫理:買いたい人につけこんで利益を得ることは不正であり、道徳に反するから、転売はNO。

 どうでしょう。個人的な意見はどうあれ、それぞれが一理ある意見を言っていると思いませんか?こんな感じの話が、随所に繰り広げられます。

 特に、倫理の示す「道徳に反する」という考え方は、ある種の思考停止にも思えますが、そのあたりにも本作はキッチリと踏み込んで回答してくれるのが面白いです。

 ちなみに、僕は転売否定派です。ニンテンドースイッチを買いたいときに、諸国行脚する羽目になったので……。また、現在PS5が欲しいのですが、転売目的の方がたくさんいるらしく、なかなか手に入りません。

 一つ一つのテーマに対しての掘り下げが深い

 本作では、倫理の授業として、まずは幸福、次に自由、最後に倫理という形で、それぞれの概念について分析し、考察していきます。

 併せて、それらの概念がはらんできた問題点、そしてその概念に寄った価値観をしている3人の考えの問題点についてまで踏み込んでいきます。

 特に興味深かったのが、倫理についての概念です。幸福や自由などは、社会が運営される中で、時代の価値観などによって決められてきた面があるが、倫理については、この社会、もっと言うなら、この世界の外側にその価値観を置くという説明は興味深いものでした。

 幸福や自由などは、何故その価値観が尊い、正義足りうるのかということを説明可能なのですが、倫理についてだけは世界の外にその基準を置くため、説明ができないということです。

 この考え方は、ある種凄まじい独善めいたものを感じますが、力強さも感じます。何かこれを題材にした物語があると面白いかもしれません。

 ③哲学の勉強になる

 正義という概念の歴史から紐解いていくので、ソクラテスから始まり、ニーチェやカント、ベンサムなど、高校の授業で何となく勉強した名前が出てきます。

 この本の魅力は、それぞれの考え方や、どんな人間だったのかなどのエピソードを交えながら、哲学の勉強になるところです。

 哲学って、何かの役に立つ学問ではない印象だったのですけれど、この本を読み進める中で考えが変わりました。むしろ、テストの点数などで評価されることのない社会人の方には、響く学問なのではないかと思います。

 最近では、「ここは今から倫理です」などが流行しているようで、若干の哲学ブームかもしれません。是非、広がって欲しいと思います。

 まとめ

 超読みやすく、そして面白い哲学小説です。難しいところは全くなく、随所にユーモアを感じさせるやりとりがあり、そして読み終わった後は、何かを得た感触があると思います。

 10年くらい前に、「これからの正義の話をしよう」という本が流行しましたが、あの本よりも、より普遍的に正義というものについて語っています。

 それでは、また!

ABOUT ME
榊原 豪
榊原 豪(さかきばら ごう)です。都内在住で、主にマンガ、映画、小説、アニメ等のエンターテイメントの情報を発信していきます。 楽しいこと、面白いことを探すのが好きですし、「何を『面白い』というのか?」という考察なども結構好きです。 よろしくお願いします。