手には一刀、斃すは五人……魔都上海に報仇雪恨の剣が哭く 小説「鬼哭街」の紹介

 こんにちは、榊原です。今日は、本の紹介です。虚淵玄さん著作の小説「鬼哭街」についてご紹介します。

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目次

鬼哭街とは?

 2002年にビジュアルノベルゲームとして発売された商品を、小説に落とし込んだものです。中国、刀、気功など、先日ご紹介したサンダーボルトファンタジーに通じる要素があるので、当時からの偏りまくった趣味嗜好がうかがい知れます。

 ちょっと見てみたら、PCゲーム版は、プレミア価格なんですね。声優とか超豪華です。井上さんとか田村さんとか明らかに90年代のアニメファンがキャスティングしています。

 これはこれで、非常にプレイしたいので、いつかsteamなどでプレイできる日が来ることを待ちましょう。

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あらすじ(公式サイトより)

 間違った未来、誰かが選択を誤った世界。犯罪結社「青雲幇(チンワンパン)」の牛耳る上海に、一人の男が舞い戻る。


 彼の名は孔濤羅(コン・タオロー)。かつては幇会の凶手(暗殺者)であり、生身のままにサイボーグと渡り合う「電磁発勁(でんじはっけい)」の使い手である。


 仲間の裏切りによって外地で死線をさまよった彼が、一年の時を経て上海に戻ってみれば、すでに裏切り者たちは幇会の権力を掌握し、そればかりか濤羅の最愛の妹までもが辱められ殺されていた。


 怒りに身も心も焼き尽くされた濤羅は、その手に復讐の剣を執る。 

 仇は五人。

 いずれ劣らぬ凶悪無比のサイボーグ武芸者たちを、一人また一人と血祭りに上げながら、孤高の剣鬼は魔都上海の夜闇を駆け抜ける。

──我はこの一刀に賭ける修羅。

魅力

①設定

 酸性雨が降り注ぐ近未来の上海が舞台となっており、どことなくディストピア的な空気を醸し出しているのが、作品の暗さに拍車をかけていい感じです。

 この作品で最も興味を引くのが、武術設定です。

 手足を義手にして、格闘技を身に着けたサイボーグ武芸者という単語だけで頭の悪さ(褒めてます)がうかがい知れます。

 更に、内功功夫がサイボーグに対抗するため編み出したのが、気を練って、掌から電磁パルスを出して、相手を機能不全にするという電磁発勁。もはや、何が何やらです。

 ひたすらに中学生が考えたような、途方もなくぶっ飛んだ設定が展開して最高です。 

②ストーリー

 殺伐とした雰囲気が物語全体を支配する、虚淵さん独特の世界観が堪能できます。

 あらすじの通り、主人公にとって最も大事なものは、奪いつくされた後のため、最初から殺る気満々で、ユーモアや安らぎなど欠片もありません。

 あるのは、失意、後悔、怒り、恨みなど、ネガティブなものばかりです。正直、楽しい気持ちになりたいというのであれば、他の作品をプレイした方がいいです(笑)。

 しかし、取り戻せないものに対する切なさや、かつて抱いた友誼と現在の立場との葛藤など、人間ドラマとして、深い感情が描かれています。

 何よりも、コンクリートをあっさりと砕き、亜音速で稼働するサイボーグ武芸者に対し、倭刀一本と己に修めた功夫のみで対抗するバトルは、正に血沸き肉躍る熱いものとなっていますので、「面白いものが見たい」と思う方には必見の作品となっています。

③セリフ回し

 虚淵さんらしい、持って回った言い方が多めですが、熱量がこもりまくっていて、命のぶつかり合いを盛り上げます。

「呆れたね。あんた本気でアタシに勝つ気でいるわけだ」

「のみならず、貴様を殺す」

柳眉を逆立てる朱(チュウ)を前に、孔(コン)の語調はあくまで冷たい。

「貴様は俺から妹を奪った。だから俺は貴様から、その愚にもつかない驕慢を奪う。まるで釣り合いが取れんが……そのぶんは、貴様の命を上乗せして良しとしよう」

 仇の一人である朱との戦闘前の会話ですが、煽り言葉として、非常にかっこいいシーンではないでしょうか。 

④登場人物

 主人公は、死亡した妹の復讐しか頭にありませんし、そのために無関係な人間すら利用します。正直、最初の方で好きになるのはなかなか難しいかもしれません(笑)。

 ですが、元は義に熱い人間として知られた孔が、妹の復讐を通して、妹という人間を知り、真っ逆さまに堕ちていく姿を見ているうちに、彼の行きつく先を見届けたくなってくるはずです。

 5人の仇は、尺の都合か作者の愛のせいか出番に濃淡がありますが、最も印象的なのは、劉豪軍(リュウ・ホージュン)です。

 かつては主人公の親友だった彼が、何故主人公を裏切るような真似をしたのか、その真意を知った時、非常に切なくなりますので、是非ご覧ください。

イマイチなところ

 サンダーボルトファンタジーと同様、漢字がマジでキツいです。

 主人公の孔濤羅(コン・タオロー)にはじまり、仇は樟賈寳(ジャン・ジャボウ)、朱笑嫣(チュウ・シャオヤン)、呉榮成(ン・ウィンシン)、斌偉信(ビン・ワイソン)、そして最後に劉豪軍(リュウ・ホージュン)。

 正直、何もなしに読むのは不可能に近いです。素晴らしいことにフリガナが振ってあるので、読めなくて困るということはありませんが、とっつき難いのは間違いありません。 

 記事タイトルの「報仇雪恨」は本に書いてありましたが、ぶっちゃけ読めませんでした(笑)。

終わりに

 サンダーボルトファンタジーのように明るくカラッとした話を期待すると痛い目を見ますが、怒りと絶望を突き抜けて、行くところまで行く漢たちの物語は、必見です。

 最愛の妹を失い、かつての友に刃を向ける、一人の修羅の姿を、ぜひお楽しみください。

 それでは、また!

ABOUT ME
榊原 豪
榊原 豪(さかきばら ごう)です。都内在住で、主にマンガ、映画、小説、アニメ等のエンターテイメントの情報を発信していきます。 楽しいこと、面白いことを探すのが好きですし、「何を『面白い』というのか?」という考察なども結構好きです。 よろしくお願いします。