こんにちは、榊原です。今日は、本の紹介です。望月守宮さん著作の小説「無貌伝 ~双児の子ら~」についてご紹介ます。第40回メフィスト賞を受賞しており、ジャンルとしてはミステリーです。
名探偵を愛するすべての人へのグチ
無貌伝 ~双児の子ら~
古典的な探偵小説の雰囲気
考えさせられる「名探偵の愚痴」
ミステリにふりかけられたヒトデナシというスパイス
ストーリー
登場人物
愚痴
おすすめ度
目次
あらすじ(「BOOK」データベースより)
名探偵・秋津は、怪盗・無貌によって「顔」を奪われ、絶望の日々を送っていた。そこにサーカスにいた少年・望があらわれ、探偵助手になることに。そんな二人の前に、無貌から新たな犯行予告が送られてきた!狙われたのは鉄道王一族の一人娘、榎木芹―怪異的連続殺人事件に望と秋津が挑む
魅力
ストーリー
他人の顔を奪い、奪った人間の顔を使用することができる怪盗、その怪盗に立ち向かう名探偵と少年の助手という、明らかに怪人二十面相シリーズを下敷きにした物語です。
物語は、無貌に敗れた秋津を古村望が訪ね、成り行きで助手となったところから始まります。金持ちの一族、その中の少女との出会いと殺人という、流れとしてはやや古風ではありますが、古村や秋津の丁々発止のやり取りが魅力的なので、特に既視感なく読み進められます。
物語の中心は、無貌との対決と殺人事件なのですが、それ以上に面白いのが、劇中で秋津が古村に吐露する、いわば「名探偵の呪縛」です。
関係者とは線を引けという秋津が、依頼人を守ろうと奮起する古村に対して、自身の経験からの教訓を語ります。
自分は探偵として数々の事件を解決してきたが、心からの笑顔で送り出されたことはない。人が死んでいるのだから当然だ。中には、探偵が来たからこそ暴走して起きた犯罪もある。
今古村は依頼人たちに感情移入し過ぎて周りが見えなくなっている。彼らが犯人だと考えられるのか。死にたくなるほど苦しむときが来る。
結構ネガティブな発言ではありますが、これ、探偵を主役にする物語では共通する呪いなのではないでしょうか。名探偵コナンとか人が死にまくって、明るく関係者と別れられるわけありませんからね(笑)。
そう言った秋津の予言のような言葉と、それから起きる事件に対して古村がどういう答えを出すのかが一つの見どころになっています。
正直、殺人事件云々の流れよりも、この葛藤とそれを超克するシーンが最高だったので、本筋がちゃんと頭に入らなかったのが印象的でした。
設定
ヒトデナシという、妖怪のような生き物がいる世界観となっており、無貌もまたその一つです。それぞれが固有能力を持っています。
ただ、事前に何がどういう能力を持っているかは開示されているので、ロジックを組み立てていけば真相に辿り着ける内容になっており、ミステリー的なルール違反はないです。
ミステリー要素として面白いというより、「こんな世界に行ってみたい」と思わせる要素になっています。ヒトデナシは外界の影響を受けて変化するため、猫が描かれている絵画とうというわけのわからないヒトデナシが出てきたりします。
また、ヒトデナシは「諱乗り(いみなのり)」という、名乗りのようなものを上げ、それが独特で面白いです。先ほどの例ですと、「我が名は、絵画と猫のヒトデナシ、露草」という音が響きます。
他にも未来視など、超能力のようなものも出てきますが、SFというよりも、ミステリーにSF的要素のスパイスを振りかけたという感じです。
終わりに
怪人二十面相シリーズを下敷きにしつつも、独自の設定と考え方でアレンジした良作です。シリーズ最初の巻にて最高傑作です。最後は結構グダグダになっていくので、続巻はそんなにおススメできません(笑)。
古村が悩みぬいて出した結論と行動、秋津が語る名探偵であることの呪い、不思議で魅力的なヒトデナシが跋扈する世界観は、間違いなく一見の価値ありです。ぜひご覧ください。
それでは、また!