こんにちは、榊原です。今日は書籍の紹介です。今村翔吾さん著作の「じんかん」についてご紹介します。
概要
以前紹介した「イクサガミ」と異なり、今作は実在の人物である松永弾正久秀を主役にした歴史小説となります。
自分は松永弾正という人物をほとんど知らずに本作を読みましたが、特に支障はありませんでした。むしろ、歴史好きの方だと、史実との折り合いをつけるのが難しいかもしれません。
あらすじ(講談社BOOK倶楽部より)
仕えた主人を殺し、天下の将軍を暗殺し、東大寺の大仏殿を焼き尽くすーー。
「民を想い、民を信じ、正義を貫こうとした」青年武将は、なぜ稀代の悪人となったか?
時は天正五年(1577年)。ある晩、天下統一に邁進する織田信長のもとへ急報が。信長に忠誠を尽くしていたはずの松永久秀が、二度目の謀叛を企てたという。前代未聞の事態を前に、主君の勘気に怯える伝聞役の小姓・狩野又九郎。だが、意外にも信長は、笑みを浮かべた。やがて信長は、かつて久秀と語り明かしたときに直接聞いたという壮絶な半生を語り出す。
幼年期~青年編について
非常に面白いです。戦国の世に生まれ、理不尽に人が死ななければならないことに憤るとともに、生来の好奇心からメキメキと成長していく姿が爽快です。
また、力をつけていく過程で失ったものを思い、その思いや夢を引き継いで歩こうとする姿は非常に好感が持てました。
周囲の登場人物も魅力的です。大名になることを夢見る多聞丸、久秀に淡い思いを寄せる日夏、飄々とした口調ながら、茶の湯を通して精神の成長を促す新五郎など、見ていて楽しいので、ページを捲る手が止まりませんでした。
壮年編について
今一つです。三悪(「主家殺し」「東大寺焼き討ち」「将軍殺し」)の背景を解説する流れが、少々退屈でした。
才気に溢れた青年として前章を終えているのに、次の物語の開始時点では既に50を過ぎ、大分くたびれた壮年男性となっています。この時点で読み手の感情移入が追い付かないのではないでしょうか。
三悪を成す都合上、弾正を追い込んでいく必要があり、覆せない事態が連発するため爽快感に乏しいです。幼年編・青年編とではほぼ別物の物語になっている印象を受けました。
また、登場人物もちょっと魅力に乏しいように感じました……というか、壮年編になるとどうしても史実に寄せなければならない部分が多いため、歴史上の人物を多く出す必要があり、十分な紹介をされないまま話がドンドン流れてしまうので、重要人物のはずなのに軽く感じてしまいました。
特に息子の久道は割とひどかったですねぇ。父親との行き違いからとんでもない事態に発展するのですが、史実じゃないとしたらどうかと思いました。
最後に
フィクション(と思われる)部分が面白く、史実を意識した部分が微妙という、なんとも言えない作品に仕上がっています。これなら、最初から「イクサガミ」みたいにフィクション部分を多めにした方が良かったような気がします。
決して読んで損をしたと感じる作品ではありませんが、中盤までとそれ以降のテイストが異なりすぎて、覚悟していないと面食らいます。
それでは、また!