ドント・ルックアップを見た人におすすめの終末小説 「滅びの前のシャングリラ」の紹介

 こんにちは、榊原です。今日は、小説の紹介です。凪良ゆうさんの著作、「滅びの前のシャングリラ」についてご紹介します。

 この記事は、映画「ドント・ルック・アップ」のネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください。映画については、別の記事で紹介していますので、読んでいただければ嬉しいです。

小惑星衝突の前に煌めく人間の絆

滅びの前のシャングリラ

人類滅亡

紡がれる数奇な絆

最期を前に自分を肯定する少年の熱さ

4

ストーリー

4

登場人物

4

心の動き

4

おすすめ度

目次

凪良ゆうさんについて

 2006年デビューの作家さんですが、名前が有名になったのは、2020年に発表し、本屋大賞を受賞した「流浪の月」からです。

 本作も本屋大賞にノミネートされ、2021年に流浪の月は松坂桃李と広瀬すず主演で映画化も決定しています。

 世間と折り合いの悪い人たちに対して、優しい姿勢で寄り添い、生きることのすばらしさを感じられる物語を描く作家さんです。

あらすじ(特設ページより)

『明日死ねたら楽なのにと夢見ていた。なのに最期の最期になって、もう少し生きてみても良かったと思っている』

「一ヶ月後、小惑星が地球に衝突する」

突然宣言された「人類滅亡」。
学校でいじめを受ける友樹(ゆうき)、人を殺したヤクザの信士(しんじ)、
恋人から逃げ出した静香(しずか)、そして――
荒廃していく世界の中で、「人生をうまく生きられなかった」四人は、最期の時までをどう過ごすのか。

魅力

ストーリー

 ドント・ルック・アップでは、小惑星が落下してくるため、地球への落下を阻止するべく奔走した主人公たちでしたが、最終的に阻止できず、穏やかに晩餐を楽しむところで物語が幕を閉じていました。

 この物語で面白いのは、小惑星が衝突すること、人類が滅亡することは確定しているところです。その中で、どんどん破滅的になっていく周囲や街並み、逆に死を意識して初めて紡がれていく絆を描いています。

 死に対して悲観的な描写はさほどないので、読む際にストレスになることはありません。登場人物の多くは、今までの日常に苦しんでいたり、空虚さを感じていた者が多いので、むしろ死が間近になることによって、自己肯定の転機となっています。

 荒廃しかけた東京を歩くので、そこはかとなくバイオレンスな雰囲気も漂いますが、前述したドント・ルックアップの最後の晩餐の空気が終始続く感じなので、穏やかに読み進められます。

 世界が終わることがなければ、決して集まることのなかった4人という、少し皮肉で、とても美しい物語でした。

 キャラクター

 語り部はあらすじの通り、友樹→信二→静へと変わっていきますが、他の語り部でもキャラクターは共通です。

 特に、最初の語り部である友樹というキャラクターの成長が素晴らしいです。友樹は、のび太のようなキャラクターで、学校ではいじめを受けて舐められています。

 そんな友樹が、東京に生みの親を探しに行くというクラスの少女を尾行していたところ、少女をレイプしようとしていたクラスを刺すというところから物語は始まります。

 この行為をきっかけに自分を奮い立たせ、少女を守るために行動していく友樹が最高に熱いのです。つい最近まで死にたくなるほど自分を惨めに思っていた友樹が、自分の死を意識し、守ってあげたい存在によって、強くなりたいと願う心の動きを細やかに描いています。

 信二や静については、友樹のような目に見える成長のようなものはありませんが、彼らが自分の生活を営む中で失ったもの、引け目を感じていたことについて、死を目前に獲得する姿が優しく描かれています。

 特に信二は、ヤクザだけあって、バイオレンスな世界でも平気で生き残れる肉体と精神の持ち主なので、彼の章は変な安心感がありました(逆に友樹は喧嘩慣れしていないので、いつ暴漢に襲われるのかとハラハラしました)。

 彼らが命と引き換えに何を得たのかを、ぜひ見ていただきたいと思います。

終わりに

 崩壊する世界を描いたというよりも、世界の崩壊を転機に結びつく数奇な絆を描いた物語です。主人公の友樹がいじめられるシーンが、唯一のストレスシーンですが、すぐに楽しい人類滅亡のカウントダウンが始まります。

 凪良ゆうさんの著作では、「流浪の月」の方がネームバリューがあると思いますが、断然本作の方がお勧めです。特にドント・ルックアップを見た方は必見です!ぜひ、ご覧ください。

 それでは、また!

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ABOUT ME
榊原 豪
榊原 豪(さかきばら ごう)です。都内在住で、主にマンガ、映画、小説、アニメ等のエンターテイメントの情報を発信していきます。 楽しいこと、面白いことを探すのが好きですし、「何を『面白い』というのか?」という考察なども結構好きです。 よろしくお願いします。